人口減少の恐怖

現在コロナ禍の中で、日本全体が新型コロナウイルス感染症に左右されるようになっているが、この流行も多くの感染症と同様の経過を取り終息すると思われる。一方で、日本が直面している最も大きな問題は、人口減少と、それに伴う経済の低迷、そして貧困、格差の増大である。

下図は、1966年から100年間の人口の推移を、過去の実績と将来の予測(人口問題研究所による)を示している。近代で日本が初めて人口減少を経験したのは、2005年だ。2016年からは人口減少が加速し、2020年段階では45万人/年、2030年以降は、70万人~90万人/年の人口減少に加速する。この様な人口の減少は、国全体のGDPを毎年1%弱減少させる効果がある(GDPは過去10年間の平均で、年平均名目で0.39%)。それ以上に、経済的には人口減少の結果としての高齢化に伴う社会保障費用の増加、若者の減少による負担増加、あるいは、経済構造の転換が難しいことなどの弊害が見られる。人によっては、一人あたりGDPが減らないので、あまり問題にすべきでないと言っている人もいるが、人口の減少に伴って、急速に日本人の平均年齢が上がってくることが観察される。つまり、老人の国になり、上記の弊害が起こるのである。

人口の増減推移(2020年以降は出生中位予測) 人口問題研究所データから筆者作成

日本は、「安心・安全」が強調され、リスクを嫌う国になっている。しかし、経済学者のシュンペーターも述べているように、イノベーションが経済発展に必要であり、経済を活性化するためには、ある程度の成長が求められる。経済格差を縮めるための最低賃金の引き上げとともに、一定以上の賃金上昇も必要だ。

生活を送る上で一定のリスクを取ることは必要であるが、その度合は文化環境に左右される。貧しい社会では、少しでもよりよい生活を送るためにはリスクを取る必要があり、生活状態が向上すれば、さほどリスクをとる必要はない。リスクを負う言葉は;勇気、冒険、大胆、決断であり、リスクを取らない言葉は;円満、調和、安全、安心である。日本では圧倒的にリスク回避が選択されている。

なぜ、日本がリスクを嫌うような社会になったかといえば、「それは日本人の性質だ」とは決して言えないだろう。最も大きな要素は、平均年齢の上昇である。老化によってリスクを取る気持ちが萎えていくことは一般的に理解できるだろう。

次の図は、WVS(World Values Survey Wave 6)による、国ごとのリスクに対する許容度を示したものである。

World Values Survey Wave 6 より筆者作成  ( )内は調査数

日本⇒ドイツ⇒中国⇒スウェーデン⇒アメリカ⇒インド⇒ナイジェリアの順に、リスクを取る割合が高くなってくる。
下図は、上記の国の平均年齢の推移である。

United Nations ; Department of Economic and Social Affairs Population Dynamics 2019

最近の平均年齢は、高い順に日本⇒ドイツ⇒スウェーデン⇒中国⇒アメリカ⇒インド⇒ナイジェリアとなっている。リスクを取る割合が高い国は、平均年齢が低くなってくる。日本は平均年齢が50才近いのに対し、ナイジェリアはわずか15才である。インドも30才に満たない。若い国はリスクに対しても積極的なのだ。このように日本の人口減少は、労働力の問題以上に、リスクを取らない気風を増加させる。安心・安全は絶対的であり、その反対の、勇気・冒険などの言葉は回避されるのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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