日本が財政破綻する日

日本の債務(借金)の状況(1200兆円あまり)は、以下図のとおり、他国に比べずば抜けている。昨年までは、GDP(500兆円あまり)に対して、238%であった。最近の6年間は、それ以前よりも、GDPに対する増加の割合は緩くなってはきていた(と言っても、少しずつ上がっている)。しかし、今年度の補正予算によって、この比率は大きく上昇した。なぜなら、コロナ対策によって新規の国債発行高が90.2兆円に達したからだ(これはさらなる補正予算によってさらに大きくなる可能性がある)。この結果、GDPに対する比率は250%を超える。今後数年間は、各種のコロナ対策による支出の増加に加え、GDPの伸びが圧縮されると予想されるので、債務のGDPに対する比率はさらに上昇するだろう。その後はどうなるのか?

財務省資料

だれでも、日本が限りなく借金を重ねると、「何か」が起こることは予想できる。いろいろある意見は、概ね限定された期間において(例えば今後5~10年以内に)、借金を重ねることは出来るかどうかについての議論だ。財政赤字はあまり気にしなくても良い(MMT理論※1)や、財政赤字が制約要因になる(殆どの多数派)との議論は、一定期間内での問題であり、日本政府の負債がGDP比率で400%を超えるころに経済がどのようになっているのかについては、楽観論者にも予想がつかないだろう。その限界は、日本の貯蓄総額で決まるのか、インフレ指標や、生産能力など、何をもって指標となるのかはわからない(どの程度の負債までならOKなのかも分からない)。

従って、保守的に財政規律を尊重する考えは継続する。なぜなら、MMTなどの理論に基づき財政を拡大するにしても、何に対して?どの程度?いつまで?など何も分からないので、いわば財政拡大は博打的な仕掛けになるからだろう。一方、財政赤字を健全化するには、経済成長か増税(あるいはインフレ)が必要であるが、最近の日本では、そのいずれも実現できてはいない。

しかし、これらの議論とは別に、近年確実になったことは、負債が増加することを意識して、一般予算が緊縮型になっていることだ。一方で政府に対する要求は、年々強くなっている。防衛予算の増額、災害に対する保証、低所得者対策等々である。その煽りを受けて通常型の予算は縮小を余儀なくされる。コロナ禍において日本の対策の遅れ、例えば、PCR検査の数、薬の研究開発、マスクや予防着の不足などは、システムの不備もあるが、日常的な予算不足が加わったものだ。

「ハーベイロードの前提」(※2)は、不況時には大幅な資金投入を許容しているが、好況時には無駄な予算を排除するように求めている。しかし、一旦予算を付けると、その部門は継続的に支出が多くなるのが一般的な法則だ。例えば、今回のコロナ禍で困っている介護現場のために介護給付費を増加させると、コロナ禍が過ぎ去った後、再度引き締めることは難しくなる(そのために介護給付費を増やすことを躊躇する)。医療に於いても同様だ。問題は、持続的な予算の拡張が、焦点の当たらない部分の予算縮小を招いていることだ。


財政赤字を気にしない拡大型予算、均衡を目指しての増税などいずれの方法も、GDPの拡大が少なく、人口減が続く場合は、すべての政策は行き詰まってくると思われる。従って、日本の停滞状況を打開する唯一の解決方法は、最も基本である人口増を図る方法、つまり、積極的移民導入政策である。年間50万人程度の移民と外国人労働者が必要だ。もちろん、その反対に小ぢんまりまとまって、観光業などで生きていく手段もあるが・・・。

(※1)MMT(現代貨幣理論);大きな特徴は、貨幣の起源や制度に焦点を当て、管理通貨制度の下で政府が独自に法定通貨を発行している国家を前提としている点である。政府に通貨発行権があれば、政府の意思に基づき通貨発行による支出が可能である。政府が通貨発行で支出可能なのだから、財源のために徴税が必要だという理屈は成立しない。このMMTの見解は、政府の財源を税と債券発行によって先買権的に調達すべきであるとする主流派経済学の見方に挑戦するものである(ウィキペディア)。

(※2)ハーベイロードの前提;ケインズ経済学において、「政府は民間経済主体に比べて経済政策の立案能力・実行能力に優れている」という仮説。ケインズが古典派経済学を打ち破る有効需要理論を生み出したハーベイロードの地は、イギリスの知識階級が集まる場であり、ケインズの政策提案はこれら知識階級が合理性に基づいて判断するという前提がある。しかし現実には、民主主義政府において適宜な増税は減税よりも忌避される傾向にあるため、財政政策面でのハーベイロードの前提は失われている。一方、独立性を高めた中央銀行による政策実施は、よりハーベイロードの前提状態に近くなっており、昨今においてマクロ経済安定化政策が金融政策主体である一要因となっている(ウィキペディア)。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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