人口減少に対しての日本の選択

日本にとっての政策課題のうち、圧倒的に大きな比重を占めるのが、人口減少の問題だ。1980年代から明らかになった人口減少に対して、過去に色々の政策が打ち出されたが、それらは「すべて」失敗に終わり、いまや人口の減少が年間50万人に達しようとする現実に直面している。人口減少の結果として、経済成長の停滞が挙げられる。その為に、税収の減少、社会保障費の削減、研究開発費の削減、公共投資の減少、公務員・その他中央政府・地方政府の管理費用など多くの予算が不足している。人口減少の実態は図のようなものだが、人口減少と同じように、生産年齢人口の減少程度もそれ以上に著しい。

これらの図は、1935年から2095年までの160年間にわたる日本の人口と、生産年齢人口(15才から65才までの人口)の推移を示している(1935年⇒2015年は実数、それ以降は予測値)。人口が最大になったのは、2008年、生産年齢人口が最大になったのは1995年である。その後どちらも減少に転じている。2045年、今から25年後には、人口は2008年の最大値(12,808万人)から2,100万人あまり減少し、生産年齢人口は1995年の最大値(8,717万人)から3,100万人あまり減少する。特に生産年齢人口の減少は著しく、毎年50万人以上が減ることになる。この時代の到来は差し迫っているというより、現在進行中である。

先進国はいずれも30年前からこの問題を突きつけられた。人口問題に対しての対処方法は国によって異なる。アメリカ、イギリス、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランドは、出生率の低下はほとんどなく、現在も2.0前後で推移している。さらに移民の流入も多く人口が常に増えているので少子化にはならない。ドイツ、イタリア、スペインなどの中欧、南欧諸国そしてカナダなどは少子化対策がほとんど行われず、出生率は日本並みに推移している。ただ移民を多く受け入れているため人口そのものが増えている国が多い。日本と同じ様な少子化と人口減が起こっているのは、フランス、スウェーデン、オランダである。これらの国は、現在日本が行っているような少子化対策を行ってある程度成功している。しかし、日本では、これらの国の対策を「真似ても」少子化対策は成功していないのが現状だ。そして、現在では将来の人口減は止められない状態となっている(山田昌弘;日本の少子化対策はなせ失敗したのか?)。

人口減で悲惨な将来を見たくない気持ちは当然である。確率的には人口減(今後45年間で2,000万人~3,000万人)は、ほぼ間違いないことに対して、経済が順調に成長する可能性はさほど大きくはない。結果的に高齢者の比率が拡大し、社会保障に大きな影響が及ぶ。これらの問題は、景気対策、オリンピック、コロナなどの短期的課題よりも、最も大きな長期的課題である。それを克服するにはどの様な考えが必要だろうか?

第一の考え方は人口減少に伴う経済の縮小は仕方ないと考え、それを容認するものである。人口減の多くは、生産年齢人口(15才から65才)の減少だ。従って、経済構造が今のままだとすると、求人難がより激しくなる。その場合、企業数も少なくなれば釣り合いは取れるのだ。多くの企業、特に中小企業の数が少なくなることである。現在の日本企業の、特にサービス業の生産性は供給過剰のため、先進国と比べかなり劣っている。そうなると、求人競争、生き残り競争は現在よりもかなり激しくならなければならないし、経営破綻する企業は多くなるので、経営者の負担も非常に大きい。現在より数十パーセント企業数が減少するような、ドラスティックな変化を受け入れる覚悟があれば、試練に生き残った企業の生産性は高くなり、一人あたりの配分をあまり減らさず、人口減に対処出来る可能性がある。しかし、経済は縮小し(予算規模も縮小)、外交、防衛などの安全保障分野は、より高度な判断を求められる(存在感も低下する)。とは言っても、現実に商売をしている中小企業者が大変なことは確かである。

第二の考えは、積極的外国人導入策だ。現在の自然の流れからはこちらの方向に進んでいるようだ。ヨーロッパの国々でも、移民を受け入れ、人口減をしのいでいる国は多い。総務省によると、2019年10月時点の日本の人口は推計で1億2,617万人、2018年10月時点よりも1年間で27.6万人減少している。そのうち、日本人人口の減少は48.7万人と大きく、その差21.1万人が外国人の増加である(ちなみに2017年の外国人増加は14.5万人、2018年は16.7万人)。今年度は、コロナ禍の影響で一時的に外国人労働者数の伸びは縮小するが、コロナ禍がすぎれば、再び外国人労働者は自然に増加に転じるだろう。生産年齢人口が今後毎年50万人以上減少すれば、企業の被雇用者も少なくなるので、何もしなければ企業数も減少する。廃業、倒産が増加する。それを食い止めるためには、外国人労働者の雇用が自然に進むだろう。

外国人の犯罪を例に出し、大量の外国人導入に反対する人がいる。しかし、これは、日本社会での格差に伴う社会の分断と同じ構図である。外国人労働者が最貧層の所得に固定されると、生活の格差によって貧困の再生産が起こり、社会不安を助長する。しかし、日本に来た外国人のかなりな割合が、日本人と同じように給与が上がり、所得層の上位に駆け上がることが出来れば、それはもはや外国人の問題とは言えない。日本社会に多くの外国人が流入すると、何となく、空気で、あるいは忖度することなどの非言語的な習慣は排除されるだろう。そして、今まで日本固有の習慣とされたものの中で、残すべきものと、消えるべきものとが判別されるだろう。それは日本的習慣のすべてが良いものではないことを意味する。

今後の選択として、①企業の大規模な淘汰が行われ、企業数が半減に近いあたりまで減少し、その結果生産性の大幅な向上が見られるか、あるいは、②企業数がさほど減少せず、外国人を積極的に導入し、島国である日本が、多くの人種の集合体となることになるのか、選択肢は限られる。どちらの選択を行うかは将来の日本を左右する。しかし、閉鎖的になるより、日本が積極的に異文化を取り入れ、将来の人類にとって理想的な場所となっていることを夢見ることも楽しいのではないか。そのために、我々は努力する価値があるのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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