私は「伝の心(でんのしん)」でこの記事を書いていますが、まず、伝の心って何?と思われる方がほとんどだと思うので説明します。伝の心はコミュニケーションが難しい言語障害者のための意思伝達装置で、価格はスイッチを含めると50万ぐらいしますが、言語手帳3級と身体障害者手帳1級があれば日常生活用具として給付される市町村がほとんどです。しかし、電子機器の日常生活用具に関しては障害者本人も知らないし、相談員や、高齢者で言うとケアマネジャー、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚士)、ドクターも詳しい人が少ないのが現状で、最新技術を必要とするユーザーに届き辛くなっているのが実情です。
また、伝の心はALSの人向けに開発されたものなので、ドクターも脳性麻痺の人に薦めるという発想が少ないかもしれません。けれど、福祉用具は固定概念にとらわれずに工夫とチャレンジすることが大事で、ケアマネジャー、PT、OT、ST、ドクターが知らなかったり無理だと思った時点で障害者は最先端の技術を知ることなく人生を終えてしまうことになります。
私は幸いにもケアマネジャーが伝の心を見つけてくれたので今の暮らしがありますが、たった一つの情報やわずかな工夫と発想の転換が障害者の人生を大きく変える事を知ってほしいです。
伝の心は、パソコンに文字盤があり、まぶたや呼吸、体のわずかな動きなどで文字盤上のカーソルのスタート、ストップを繰り返し、一文字ずつ文を作って相手に意思を伝える道具です。パソコンなのでマウスの操作も可能で、ネットに繋げばメールをしたりホームページを見たり出来ます。
私が伝の心を知ったのは今から14年前のことです。当時私は何もする事がなくてテレビを見るだけの毎日だったのですが、何か障害者でも出来る事はないかと考えました。私は言語障害はあるけれど声は出るので、音の振動で操作が出来るパソコンを探してほしいとケアマネージャーに頼んで見つけてもらったのが伝の心でした。
伝の心が来て1時間ぐらいでメールが出来るようになり、ホームページの閲覧も出来るようになりました。私にとって伝の心はドラえもんのポケットから出てきた夢のような道具で、伝の心の開発者にノーベル賞を!と思うぐらい、私の人生を変えました。
声の振動で操作するものなので慣れない頃は大きな声を出してしまいオットセイのようだと言われましたが、呼吸するぐらいの小さな振動でも操作が出来るので最近は静かになりました。
伝の心を使用する筆者
伝の心でホームページを見ていると何だか障害者でも働けそうな気分になり、実際に1年後に自分のホームページを伝の心で作り、今は障害者だからこそ出来る仕事をしたくてコラムを書いています。それまでは家と施設の中だけの世界に閉じこもって満足していたので、もし伝の心がなかったら広い世界を知らずに一生を終えたのだと思うと、伝の心には本当に感謝しています。福祉用具は障害によって求めるものが違うので採算を考えると大変ですが、一人の障害者の人生を大きく変えられるのも福祉用具だと思います。
14年前と比べてからも技術の進歩は目覚ましく、念じるだけで「はい」「いいえ」が伝わったり視線でパソコン操作が可能になり、スマホも劇的に進化して様々なアプリが開発されています。どんな障害でもカバーが出来る技術が構築されてきていて、最近はロボット技術にも進化しているので、その中の一つを紹介します。
伝の心は瞬きや指一本動けば会話やメールができコミュニケーションはとれますが、文字情報だけで感情は伝え難く、リモートソフトをインストールする事は伝の心が動かなくなる恐れがあるため、基本的には通信教育も受けられません。つまり、顔と顔を見てコミュニケーションをとる事は難しいのです。そこで開発されたのが分身ロボットOriHime(オリヒメ)です。
『分身ロボットOriHime(オリヒメ)は、生活や仕事の環境、入院や身体障害などによる「移動の制約」を克服し、「その場にいる」ようなコミュニケーションを実現します。OriHimeにはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されており、インターネットを通して操作できます。学校や会社、あるいは離れた実家など「移動の制約がなければ行きたい場所」にOriHimeを置く事で、周囲を見回したり、聞こえてくる会話にリアクションをするなど、あたかも「その人がその場にいる」ようなコミュニケーションが可能です。』(株式会社オリィ研究所HPより)
障害があると「移動」は困難で一番難しい事ですが、OriHimeはそれをカバーしてくれる技術で「その場にいる」感覚を与えてくれます。一昔前は目と目を合わさないと感情が伝わらないと言われていましたが、ロボットを通して人と人とのつながりができる時代へと進化しているのだと思います。
しかし、日本は障害をカバーする技術は世界でも最先端ですが、社会の力で障害をカバーする意識(能力)が低いです。新たな技術を使ったとしても障害者が社会参加するまでには時間がかかりすぎます。時間が限られる中で新たな方法での社会参加を拒む社会は人が生き難い社会だと思います。障害をカバーするロボット技術がいくら進化を遂げようが、スマホやOriHimeを使って国家試験を受けられるようになるのはまだまだ先のことでしょうね。
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