人口減少に対する政策は、FACT(事実)に基づいて立てられているだろうか?

最近目立つのは、FACT(事実)に基づかない政策が多くなったことだ。経済成長が続き、国全体が豊かになっているときには、計画を膨らまし、適当な事を言っても、意外にそれが通用する場合もある(例えば、池田内閣の所得倍増計画)。しかし、現在のように、経済成長が止まり、財政が膨張しないときには、過大なほら話に近い政策はその罪が大きい。問題を悲観的に見たくない心理は誰にでもある。しかし、政策は事実に基づかないと、国を良い方向に向かわせることが出来ない。

現在、人口減少(少子化)が原因となり、経済活動、地域生活、社会保障などが低下を余儀なくされていることは明らかだ。日本が抱える諸問題のうちでも、人口減少が将来どの様になるかは、最も重要な問題である。その上、将来の人口予想もすでに出ている。しかし、政府は政策を立てるときに、これらの事実をあえて見ないようにしている。

2015年には日本の総人口は、1億2,709万人だった。人口問題研究所によると、2015年時点で将来の人口中位推計(つまり最も起こりそうな将来)では、2040年には1億1,000万人あまり、2053年には1億人を割る可能性が高い。そして、50年後(2065年)の予測は、8,808万人(中位予測)だ。これはその根拠となる合計特殊出生率が実績値1.45(2015年)から1.42(2024年)に緩やかに低下し、その後緩やかに上昇して1.44(2065年)に至る計算に基づく(ちなみに合計特殊出生率の実績は2018年で1.42、2019年も1.42で予測とほぼ合っている)。

これに対して、2015年に政府は「1億総活躍社会」「地方創生」などのスローガンを掲げ、50年後も人口1億人を維持することを目標とした。その為には、希望出生率1.8を目標としている。

しかし、その後も出生数は減少し続けている。2017年94万6,065人、2018年91万8,397人、2019年は90万人を割り込んで86万4,000人(推計)となる。出生率が仮に上向いても、現役世代の女性の数は減り続けるため、生まれてくる子どもは増えない。現在の人口を維持するには合計特殊出生率2.08以上が必要だが、現状では出生率1.42に留まっている。

                 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)結果の概要」より

                           人口問題研究所データより筆者作成

人口減少は1990年代には明らかになり、その後多くのプランが試みられたが、人口減は止まらず、現在に至っている。その間、装いを変えてはいるが、代わり映えのしない政策が続いている。それに対して、人口減少は止めようがないのに、人口減少を「前提」とした対策が試みられたことはない。施策を決めて10年もすれば、その施策が功を奏するかどうかは分かるはずだ。同じ様な対策を続けても、効果がある(人口減に歯止めがかかる)ということはすでに幻想であると認めなければならない。それが、FACTをもとにした政策なのである。FACTをもとにすれば、飲み込みの良い一般受けする政策は作れない。

人口が減少することをもとにした政策では、3つの方法がある。
①人口減少を受け入れて、生産性の高い事業に集中する。その為には生産性の低い事業は廃業に追い込まれる。サービス業の多くや、製造業、特に中小企業を中心としたものだが、現状は生産性の低い企業も温存されている。
②外国人を大量に労働者として受け入れ(1,000万人から2,000万人程度)、日本を人種の混合した国として取り扱う。この場合は、産業構造は現在と大幅に変化することはない。
③今まで通りの政策を続けあまり強い改革は行わない。結果的に製造業は衰退し、色々の問題が起こっている。経済成長はなく、社会保障が切り詰められ、生活状態は現在よりもやや悪くなる。しかし、この様な国は周辺の国からは歓迎され、観光立国のようになる。

持続的に人口が低下すると、当然地方の人口もそれと同じ様に低下する。過疎の地方集落は、消滅する可能性も高くなる。人口が低下する可能性が高い場合に、「地方創生」を謳い、一地方が人を集めたら、その反対に人口がより一層低下する地域がでてくる。

経済成長、地域生活、社会保障などはいずれも、人口の増減に強く依存する。従って、人口が低下することが明らかな場合、政策は人口減を前提として作らなければならない。それがFACTをもとにした政策だ。さらには、たとえ、希望的な政策を掲げても、FACTによって、それが否定される場合、つまり、5年から10年間の実績を見て、予測が食い違った場合は、大きな修正を行う必要がある。

FACTを見ないで、希望的予測によって政策を立てる場合は、あまり反対を生まない。逆に、FACTを見据えて政策を決める場合は、人々が見たくないことを眼前に突きつけることになり、評判は良くないかもしれない。そのためか、日本では、経済成長が止まって以来、30年間にわたって、FACTを見ないようにして政策を決める習慣が蔓延している。30年前に政策を決めた人たちはすでに現場にはいない。そして、その後に出てきた人たちも、過去を省みることをせず、10年前よりも悲観的数値を基に、ただし、将来を「楽観的」に見て、政策を決めるようだ。この繰り返しが永久に続くのだろうか?

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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