やる気が無いのか、やる能力がないのか?

新型コロナの感染に対しての記者会見において、現状のPCR検査の数が少ないことに関連し、表題の質問が投げかけられた。「PCR検査をやる気が無いのか、やる能力がないのか?」。「やる気が無いわけではない」との首相答弁だった。やる気があるとすれば、PCR検査を増やす能力がないということになる。しかし、これは大問題で、やる気が無いほうがよほどマシである。やる気が無いのは指導者の問題だが、やる能力がないのは日本全体の問題だからである。

今回のコロナ禍で分かったのは、日本の能力が思ったほど高くないということだ。決して政治家が間違ったために、成果をあげられないわけではない。PCR検査について、どこがボトルネックになっているのか、誰も分からないようだ。検査試薬が足りない、検査機器が少ない、検査員(技術者)が足りない、検体を採取するための人員(医師など)が足りない、予防服が足りない、採取する場所が少ない、などすべての部分で問題があり、従って、通常の生産工程点検のように、ボトルネックを探し、そこを改善することによって生産が上がるような方法が取れないのである。これらの原因としては、予算の慢性的不足から生じた、行政改革(例えば保健所の数は20年前より半減している)、経常的予算の切り詰め、より安いものを買うために外国製品を多用すること、などが考えられる。いずれも資金不足によって、予算を切り詰めた結果である。

また、能力は計画通り実行すれば高まるわけではない。何回も実行して失敗し、試行錯誤の末に初めてプロセスの解決が図られ能力は向上する。一般的な事柄について企画したことを速やかに実行して失敗し、さらに修正を行い実行し能力を高めるのだ。従って、何らかのものについて能力が高くなるためには、それ以前に何回も試行し、経験を深める必要がある。

日本の根本的能力不足がどうも今回のコロナ禍によって浮かび上がったようだ。まとめると、能力の低下は次の2つの原因から生じている。一つ目は、国としての財政赤字による慢性的な予算の切り詰めだ。財政赤字に伴う赤字国債の発行などで、国全体の債務残高は、GDPの240%に達し、ダントツに世界一である。さらに債務残高は増え続けている。今回のコロナ禍で国全体の債務は大幅に増加するだろう。

二つ目は、安全・安心を求める傾向が強くなり、新規の事業に慎重になる傾向だ。慎重になることは、失敗を恐れることである。そして、失敗すると非難されることでもある。「だから言わないことではない・・・」と責められ、謝罪会見も頻繁に行われる。

この2つの問題は、早急に改善することが出来ないので、かなり問題の根が深い。財政赤字による慢性的な予算の切り詰めについては、今回のコロナ禍のような異常事態においては、財政支援は積極的、重点的に行うべきだが、問題は、毎年何らかの「理由」をつけて、「景気刺激策」を行っていることにある。日本は慢性的な財政支出を行わないことは不可能で、財政赤字の改善は無理なのかもしれない。そうすると、財政的破局に向かう以前に、予算の切り詰めで、国としての能力が低下し、二番目の保守的な態度、失敗しない態度をなおさら助長するのかもしれない。

国としての能力不足は、早急に何らかの対策で改善できるものではない。財政赤字を縮小し、十分な行政予算、研究開発予算を付ける必要がある。そして、果敢に挑戦し、失敗を恐れず、失敗したらやり方を変えて更に挑戦するスピリットを生み出す必要もある。日本が再びこの様な国に戻ることが出来るかどうか、基本的な態度が問われるのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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