幸福をどのように評価すべきなのか?

経済成長が、先進国の間で鈍化している状態で、努力の目標を何に定めるのか、あるいは、経済成長に向けた努力自体を放棄するのか、についての疑問が上がっている。


一部の人は、成長率の停滞を受けて、「幸せ指数」を作成し、もはや経済成長は人間の幸福とは直接には関係ないと言っている。しかし、幸福の定義自体が非常に不明確なので、経済指標に代わり、客観的指標とすることは難しい。成長率がこのままで停滞するとしても、短絡的に成長以外のものに、指標を簡単に移し変えることは容易なことではない。なぜなら、私たちはこの100年間、経済成長、つまり、生活が豊かになることを個人的尺度でなく、社会的視点から客観的幸福の明確な指標としているからである。


発展途上国は、まさしく現在でも、幸福になることと、経済的豊かさとはほぼ一致している。

 

では、先進国で経済成長が停滞するであろうと思われる状態で、どの様な幸福の指標を目指せばよいのだろうか。その為には、「マズローの欲求階層」が参考になる。


動物的な欲求としては、「生理的欲求」、「安全欲求」、そして、「所属欲求」が上げられる。それに加えて人間、あるいは類人猿の一部に見られる「承認の欲求」も重要だ。これらは、「欠乏欲求」とも見られ、本来的欲求であるべき「自己実現欲求」を支えるものであると、マズロー氏は述べている。

この様に整理すると、「欠乏欲求」を満たすことが政府の客観的、政策的な目標となり、「自己実現」を行うことは、個人的問題となるのだろう。そして、「所属欲求」や「承認欲求」は、個人と政府、双方の関与が必要となるし、今後の目標ともなるだろう。今までは多くの場合、「欠乏欲求」の充足に向けて、「生理的欲求」、「安全欲求」を国家の主たる目的として目指していたのである。


例えば、「生理的欲求」については、食、住、衣の満足度を高める目的で、経済的指標を上昇させ、経済的格差を減少させるような再分配を行うことによっての満足を求めることが出来た。「安全欲求」は、食物の安全性や、住居の耐震性、さらに治安状態などであるが、これらも経済的豊かさと経済的格差の減少が基礎となる。そこで制度を作れば良い。

 

これに対して欠乏欲求の内でも、「所属欲求」は経済的指標との関係性が少なくなる。コミュニティへの所属は、経済的豊かさとはむしろ反比例し、所得の向上によって家族形態が変化し、既存のコミュニティが消失することから考えると、「所属欲求」の満足度は、経済成長と共に、低下している可能性がある。

 

夫婦を基本単位として、一人暮らしが多くなる状態では(一人暮らしでも生活が成り立つ経済状態を反映している)、個人の独立を前提とした政策が必要となり、どの様にして、「所属欲求」を満たすのか不明である。

 

さらには、最も必要で不足しているのが「承認欲求」である。
社会が、社会的ヒーローや地位の高い人、あるいは経済的に豊かな人に対してのみ承認を与えている状態から、それらに関係なく、一人一人の人間に対して承認を与えることが出来るようになってこそ、経済成長と関係なく、幸福が訪れるのだ。

 

承認を与えることは、自尊心を高めることと一致する。特に、貧困、障害、高齢、人種などで差別され、価値を下げられている人たちに対して、そうでない人と同じような承認を与えること(自尊心を高めること)が出来なければならない。

 

承認が与えられるためには、社会構造、社会意識双方の変化が必要だ。社会構造は社会意識変化を招き、社会意識変化が社会構造の転換をもたらし、双方がお互いに影響する。


経済が停滞するから、経済以外での幸福の追求を行うのではなく、根源的な問題を見据えて、将来の私たちのあるべき生活を考える上で、「所属欲求」と、「承認欲求」を満たすことが出来るような社会を作る必要があるのだ。

 

そこで、それらの「具体策」が必要となるのである。多分それは、職能的組織への所属(学校、職場など)から、住んでいる地域への所属(地域のスポーツクラブや趣味の地域活動)に切り替えることが一つの鍵となるだろう。

 

いっそのこと出来ない相談であると割り切って、人間の欲求から所属欲求や承認欲求を無くしてしまった方が良いのだろうか?

 

その方法は?教育によって?まさか遺伝子編集によって?

 

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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