1970年代に入ったオーストラリアは、それまでの白人中心の国家から、多文化主義へと舵(かじ)を切っている。それと時期を同じくして、「同一労働同一賃金」の概念も広まってきた。この場合の同一労働同一賃金は、日本で見られるような非正規社員と正規社員との格差よりも、男女の賃金格差に焦点が当たっている。オーストラリアでは、もともとパート社員とフルタイム社員との賃金に付いての違いは少なく、それらの移行もよく見られる状態だったのだ。
「オーストラリアにおけるジェンダー・ギャップ政策」
(財)自治体国際化協会シドニー事務所
では、事業所に於いて同一労働同一賃金の原則が行われているかを、介護施設にて具体的に見てみよう。
ある介護施設では、次のような勤務体制をとっている。もちろんすべての施設ではないが…。
1ヶ月前に、その月の空欄の勤務予定表が掲示板等に貼り出される。するとそこに、従業員は先着順に自分の名前を記入する。勤務は3交代なので、いわゆる早出、遅出、夜勤がある。そしてそれぞれのシフトごとに必要人数も決められている。早出は7:00~15:00で8名、遅出は、15:00~23:00で8名、夜勤は23:00~7:00で3名、などである。これが1ヶ月の一覧表になり提示される。職員は自分が出勤したい日と時間に名前を書き込むことになる。但し、勤務は1ヶ月20日以内で、1日1回の勤務(つまり連続勤務はない)、一定以上の夜勤連続の勤務は禁止されている。
職員に訊いてみると、最も人気が良いのは夜勤だそうである。理由は、日勤よりも給与が良いことに加え、自分の夫(日本と同じように介護施設では職員の大部分が女性である)が昼間の勤務(一般の社員はほとんどがそうだ)なので、夜間は夫に子供の世話をしてもらえるそうだ。非常に合理的な考えである。その結果、夜勤の欄が最初に埋まり、その後日勤が埋まっていく。従って、各職員の勤務時間は最も多い人で月160時間、それから連続して下がっていき、160→155→140→120・・・80時間などと変わっていく。同じ職員でも、ある月は160時間、別の月は140時間と、自由に時間を調整する。従って、正規・非正規などは分類の仕様が無い。ただ、最後の調整(空いた勤務)は、メンバーとマネジャーが話し合って決めるそうだ。故に、パート社員、フルタイム社員の違いはなく、自分の都合で勤務時間を決めている。
各個人ごとの時間給は予め決まっている。資格によるものが大部分だ。特に看護師は公的資格に多くの段階が存在するので、週末は資格試験のための勉強、あるいは試験に忙しい。時給単位で給与を決めれば、同一労働同一賃金が比較的簡単に達成することが出来る。そして、職員の自発的な勤務も可能となるのだ。職員は、一定の資格によって給与が決まり、よく分からない忠誠心や上司の覚えが良い、あるいは勤務年数が長いなどの「変わった能力」で決まることは少ない。
日本のような、男性中心社会では、女性は家庭で子供の世話に加えて、「男性の世話」が必要となるが、男女が同じ様に仕事と子供に対して責任を持てば、子供の面倒は「どちらかが」行うだけなのだ。
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