移民と出生率について

日本では移民を受け入れていない。労働力のみを受け入れている。しかし、マックス・フリッシュが述べているように、「我々が欲しかったのは労働者だが、来たのは生身の人間だった」となるかもしれない。事実、単身で来ることを期待されている単純労働者が、家族と3年あるいは5年以上も別れて暮らす生活を強要すること(日本政府が強要している)が、倫理的に正当なのかどうか、甚だ疑問である。

一方、日本の人口減少は深刻だ。

GDPの停滞を引き起こす原因として、その半分以上が人口の減少によるものだとの指摘もある。ヨーロッパ諸国はEUの統合以来、多くの外国人を労働者や移民、難民として受け入れている。外国人比率は日本の2%程度よりも大幅に高くて、10%を超える国も多い。ヨーロッパ諸国は、人口減を辛うじて防いでいるが、女性に対する出産育児に関する保護政策に加え、外国人の高出産率が人口減を抑制している。

 

図に示されているように、自国女性と、移民あるいは外国籍女性との比較では、圧倒的に自国女性の出生率は低い。更に次のデータは、ドイツに在住の外国人とドイツ人との出生率の推移である。ドイツ全体の出生率の上昇が、主として外国人によって引き上げられていることが分かるだろう。

日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー 村上 芽(めぐむ)氏

次はフランスの例である。

フランスでは、2017年の合計特殊出生率で、非移民女性が1.8、移民女性が2.6となり、0.8の格差が見られた。出身国別では、合計特殊出生率で北アフリカが3.5程度で最も高く、これにアフリカ・トルコが3で続いた。ただし、合計特殊出生率は、非移民・移民共に2014年と比べて低下傾向を示している。

先進諸国は、いずれも出生率の低下に悩んでいる。発展途上国からの移民、難民は、その国の出生率を引き上げる効果があることは確かだ。しかし、出生率を高める効果があるからと言って、その理由で、移民、難民を増やすべきではない。むしろ、移民、難民の受け入れに際して、治安の悪化や異文化の流入などの難点をあげ、反対する人たちに対して、倫理的な理由以外にも利点があることを示す材料として用いるべきであろう。

 

日本の社会保障体制を保つための障壁は、経済成長の鈍化と人口減少だ。この2つは、お互いに関連している。人口減を防ぐことになる婚外子の増加と移民の導入は、いずれの政策も今までの倫理観を変える政策だ。ただし、この様な政策転換は、功利的に、社会保障政策維持のために行うことは不適当だろう。婚外子の増加と、移民、難民の受け入れが「事実」として、人口増加に結びつくという知識を持っていることが大切なのであり、利益があるからと言って、婚外子を増やしたり、移民難民の受け入れを実行する必要はない。それらは、新たな倫理観を基礎として行われるべきである。新たな倫理観とは、現在広まりつつあるナショナリズム的な考えではなく、国境を超えた、自由、平等、人権などの倫理観から考える視点を持つことなのである。

 

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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