「在宅老人ホーム」の試み

「在宅老人ホーム」の試みがSOMPOケアで行われている。事業は主に東京都で行っているようで、利用者数は少しずつ伸びているが、収益は黒字ではないようだ。通常在宅ケアは、家族の犠牲あるいは全面的協力のもとになされることがほとんどである。それを支える訪問介護といっても、介護者が束の間の休息を取るか、ストレスを軽減する相談などが精々だ。「在宅老人ホーム」の試みは、家族の関与が物理的に困難であっても、障害を持つ高齢者が希望すれば、自宅で生活できることを目標としている。世間一般の常識では、高齢になり障害が発生しても、金さえあれば、その障害が強くなると老人ホームあるいはそれに類似した施設に入居することが「当然のこと」と見なされている。この理屈は、主に介護者側から出たものだ。当の高齢者の気持ちは国土交通省の平成15年調査では、今の家に住み続けたい希望がおよそ93%で、内閣府調査では、体が虚弱化しても現在の住宅か、少し改造して住みやすくして留まることを希望する人が63%となっている。

現在の住まいに住み続けることが出来ない場合の選択肢としては、老人ホーム及びその類似施設があるが、二つの問題点が挙げられる。一つは自由な生活が妨げられること。二つ目は、特に東京都内では、入居金額が非常に高額であることだ(入居料が比較的安い介護老人福祉施設は都内では少ない)。元気な内に老人ホームへ移ることを勧める人もいるが、元気な内は自分で自由を確保し、命令を拒否することも出来るが、障害が強くなると施設側の管理が強くなり、自分の意向を通せなくなるのは確かだ。自宅が貴重なのは、「住み慣れた家」ではなく、「自由な家」であるからだ。

調査で60%~90%の人は身体に障害が発生しても、自宅での生活を希望するとすれば、現状のいわゆる「地域包括ケア」は、機能していないという結論に及ぶ。多くの人が希望する在宅ケアが「それは難しい」とか、「もしも孤独死が起こったらどうするのか」などの議論を早く超越し、実際に高齢者が希望する終末期を送ることが出来るようにしなければならないのだ。

その為には、次の事が重要だ。身体的にあるいは精神的に障害があっても、高齢者本人に、自立の意思があるかどうか?あるいは周囲の人がそれを支える意思があるかどうか?が問われなければならない。それが乏しい場合は、安全な管理された施設入居が望ましい(その代り自由を犠牲にする)。

従って、「在宅老人ホーム」が成立する条件は、介護保険以来の顧客⇔サービス提供者の関係を超越し、サービス提供者、高齢者、及びその家族・親族がお互いに「対等の関係」で協力する姿勢を持つことが出来るかどうかにかかっている。

例えば、ケアマネジメントで高齢者を支える場合、サービス提供者、家族・親族がどの様にケアを分担するのか、あるいは、高齢者自身が我慢すべきはどのような事なのかを、十分に、その都度(高齢者は状態が常に変化するので)検討する必要がある。ケアプランは、高齢者のケアをどの様に支えるかについて、公的な介護保険(通常は巡回型訪問介護)だけでなく、家族・親族あるいは友人がどの時間、どの様なケアを提供するのかについて記載しておくべきだ。その場合、誰かに責任を負わせたり、依存することを慎まなければならない。サービス提供者も「顧客」の観点でなく、「パートナー」的な視点が求められるのだ。

さらに現実的に問題となるのは、医療的なケアの必要性が大きな比重を占める場合である。終末期にどの様なケアを望むのかについては、高齢者抜きで、家族と医療関係者が決めることは厳に慎まなければならない。それが、客観的に正しいとしても、である。最も重要な点は高齢者自身の決定であることを関係者全員が認識する必要があるのだ。その為には、早めにACP(advanced care planning)を使い、医療従事者を含めた関係者の認識を共有するのが重要な課題である。そして、高齢者の状態の変化に合わせ、ACPを進展させることも不可欠な条件である。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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