人類の将来を左右するもの

SOURCE: OECD The World Economy - A Millennial Perspectiveより(一部追加)

このグラフは、紀元0年からほぼ最近までの世界のGDPが、どの様に推移したのかを示すものである(下段の年次目盛が一定ではな事には要注意)。グラフに見られるように、1800年代までは大体同じような状態(成長がない状態)を保っていた世界経済は、19世紀後半から拡大していった。20世紀に入ると、そのスピードは加速して2017年度に世界のGDPは、約80兆ドルに達している(世界の人口が80億人弱なので、一人当たり1万ドルで約110万円は覚えやすい)。言うまでもなく、この原因は科学技術の発達によるものだ。人間の意識の変化や社会制度の変遷、政治制度の進化や帝国の興亡などは読み物としては面白いが、人類の変化に及ぼす影響は科学技術に比べると、比較にならない程小さいようだ。科学技術を除くと、社会が進化しているかどうかが疑問に思えてくる程である。

今後、人類は変化がどの様なものであれ、それが破滅につながる危険がある場合は、変化を回避する必要がある。過去が平穏だからと言って、この様な爆発的な科学技術の進展の前には、その確証が無い。

現在IT技術によって考えられている自動運転技術や現金決済のデジタル化などは、本質的な危機要素ではなく、人類の生存を左右するものでもない。むしろ、人類に対して恩恵を与えるものとして考えられている。現在考えられる人間の将来を左右する大きな問題は二つある。一つは遺伝子操作の問題であり、もう一つは人間の情動を支配するであろうAI技術の問題だ。

「クリスパー・キャスナイン」(CRISPR−Cas9)などを代表とする遺伝子編集技術は、素晴らしい技術的発展を示していて、遺伝子の中のさらに小さな一つの構成元素(アデニン、グアニン、チミン、シトシン)を取り換えることが出来るところまで進歩している。つまり、この様な技術の先に見えるのは、種の形質を自由に変えられることなのだ。遺伝子配列の編集によって、植物の品種改良、動物の飼育環境の簡易化を実現することが可能となり、従来の遺伝子変換作物よりも、より細かい効率的な改良が出来るようになる。さらには、家畜の遺伝子編集によって、不足している人間の臓器移植源とすることも可能になるだろう(例えば、遺伝子編集した豚の肝臓を人間に移植するなど)。また人間に対する適応は、多くの遺伝子病に対する治療や、人類の夢である不老不死の実現、つまり、老化の制御も可能になるだろう。

ただし、遺伝子編集の負の側面も重要である。治療すべき遺伝子病の範囲を確定するのは困難なため、拡大解釈され、遺伝子編集技術が疾患以外にも使われる可能性もある。また、現に生存する人間が持つ疾患の治療は、体細胞に対する治療であるが、生殖細胞(精子、卵子、受精卵)に対する治療が行われると、新しく生まれる人間に対して、その遺伝子の編集によって、遺伝子疾患を持つ子供を無くすることが出来る。この技術は、それ以上に、子供の性質(知能や運動能力など)をコントロールすることに拡大する危険があるのだ。中国において、生殖細胞に対する遺伝子編集が行われる危険が現実視され、生殖細胞に対する遺伝子編集が広く行われると、人類が比較的短期間のうちに(今から30年~40年後)、全く異なった新しい人類に変化するか、あるいは、絶滅する危険もあるのだ。

もう一つは、人工知能の問題から生じる人間の自由意志と効率性の問題だ。かつては、人間が自由にならないことが余りにも多かった。その為に、「神」が自然を支配していると考えざるを得なかった。自然科学の知識が進むと、人間は自然を理解し、自然をコントロール出来ると考えるようになった。進化論的に、自然がゆっくりと変化する時代は終わりを告げ、急速な人為的なコントロールが自然に対して行われる。自然の法則を支配するものが神であるとすれば、それは妥当なことだろう。人智が及ばないことに対して素直になるのは必要だが、人間はそれ以上の力を得ている。自然に対する挑戦が、人間そのものへの挑戦に代わる場合がある。情動を理性でコントロールしていた社会が、そのコントロールをAIに任せるような傾向になるのだ。判断を停止する。つまり、対人関係、欲望のコントロール、生きがい、職業的倫理観、人権、自由の精神などをAIに任せたらどうなるのか。

今までも人間は、難しい問題や二つの道のどちらを選んでも、問題が生じるような事柄に対して、現実の功利性と、人権や自由の問題との板挟みで解決方法が困難である問題が数多く存在した。それをAIに委ねるとどうなるのか。企業の戦略、人材採用、生活態度の決定、あるいは結婚相手を決めたりするその過程を、AIが支配する傾向が強くなると、その過程はブラックボックスに入るだろう。つまり、人間の自由意志が少なくなることを理解しなければならないのだ。企業戦略あるいは生活設計にビッグデータは必要になっているが、それに頼ると、そのプロセスはブラックボックス化する。決定する過程を個人が把握すればよいが、その煩わしさから考えると、AI任せにするだろう。

かくして人間が、日常的な事柄を考えるのをやめ、将来起こることすべてがコンピュータで予測された範囲内になると、AI無しでは生活が困難となり、かつ、冒険心も薄れるだろう。人間という種族は、弱体化し、多様性が無くなり、単一化した動植物と同じように何かのきっかけで絶滅するかもしれないのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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