外国人労働者受入れ前夜!現在の給与体系に警鐘を鳴らす

外国人労働者の導入を政府が促進しようとしている背景は、単純労働力の減少であり、言葉を変えると、経営者が低賃金で使える労働力の確保を強く望んでいる表れである。しかしながら、日本経済は経営者で成り立っているのではなく、日本国民で成り立っている。一方に都合の良い方法が、他方には良くない影響を与える場合、十分に双方の問題を検討して政策を行う必要があるのは当然のことである。

この場合の問題とは、「果たして単純労働は低賃金が当然なのだろうか?」という点だ。従来の慣習から言えば、「そうだ」と答えたくなるはずである。しかし、その前提が覆されている。前提とは「単純労働は、その範囲があまり拡大せず、そのための労働者は無限に存在する」ということである。

産業革命は、それまで熟練職人が行っていた作業を機械によって代替えし、より簡単な作業に変換した。そして、従事する人員も少なくなった。その延長線上に現在の製造業がある。その労働者は以前の職人よりも熟練度は低いが、それでも一定の作業に対しての熟練は必要となっている。これらの大部分は「正規職員」と呼ばれる。今日、単純労働者と称されるのは、これら「正規職員」よりも、さらに熟練度が低いと考えられている人たちだ。

製造業では機械が人間の代替えをすると共に、一定の生産のために要する人員が減少する。その結果、製造業の生産性が高まり社会が豊かになっていくと、サービス業が拡大する。製造過程の分業化は、人間の歴史上常に行われ、今日のような状態となったが(今では自分が使う物がどの様に作られているかは誰にも分からない)物と同じように、生活の分業化も進んでいる。生活とは、掃除、洗濯、炊事、風呂焚き、子供の世話、老人の世話、病人の看護などを指しているが、これらは、長い間、個人や家族が行うべきものとされていた。製造業の言葉でいえば、自給自足状態が当然と考えられていた。家族と労働市場が融合するに従って、これら生活上の作業の分業化も進行していったのだ。その結果、これらの作業に必要な「労働者」が必要となったのである。これら生活を代替えする単純労働者には、小売、流通、警備なども含まれる。サービス業労働者の給与は低いものであるとの一般認識があるが、これは家政婦や使用人などのようなイメージから出てきたものであろう。これらサービス業の需要が今後増大し、無限に提供できる労働力がない場合、今までの考えを変える必要がある。

労働者の給与の計算で、日本では未だに「月給」を基本として考える傾向が強い。それだと、賞与や各種手当が計算外となり、給与を正確に捕捉することが出来ない。従って、給与の計算、比較検討には、時間給と年俸を単位とすべきであろう。パートタイム労働とフルタイム労働の給与比較には時間給が合理的だし、フルタイム同士の業種間の比較には、年俸が適切である。厚労省の労働経済白書で示されている日本での年間労働時間は、2010時間程度であるが、日本の平均的な年間労働時間を約2000時間と見なして、年俸500万円のサラリーマンの時給を計算すると、その時間給は2,500円となる。現状での時給水準は、コンビニで1,000円~1,100円、介護職で1,000円~1,200円であり、フルタイムのいわゆる「正規職員」との差異は明らかだ。介護職のフルタイム給与が低いと言われているが、年俸300万円のフルタイム介護職の時給は1500円になるので、やはり平均的時給者との差異がある。この様な比較を行うためには、時給を基にした給与比較が一般的に行われる必要があるのだ。

最近、amazonはアメリカ国内のパートタイム労働の時間給を一律15ドルに値上げした。11月現在の為替(1ドル113円)で換算すると、日本円で1695円となる。この給与水準は、アメリカの通常の小売店の、1200円~1300円よりもはるかに高い水準だ。この例が示すように、収益が高い企業は人手不足の場合、単純労働に対して給与を上げることが出来るのである。
外国人労働者を導入する理由として人手不足とは言いながら、給与の上昇を抑制するのが目的であることは明らかである。それは、経営者からの要請であり、現在の給与水準を変えないための方策なのだ。

現在進行しているデジタル革命では、主に標的となるのは単純労働者ではない。給与がもっと上位(年俸400万円~800万円)程度もしくはそれ以上のフルタイム勤務者なのである。これらの給与所得者の時間給は2000円~4000円となる。

次世代の給与は、単純労働者の給与上昇と、中間所得者の給与低下(あるいは人員削減)が主たるテーマとなるだろう。そうすると、時給者の給与は少なくても1500円~2000円としなければならない。この様な給与体系の大革新を進めるためには、外国人に頼らず、日本人の最低所得層の給与を底上げして、企業の構造を変える必要がある。そうすることで、同一労働同一賃金の原則も達成される。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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