スイスの戯曲家で小説家のマックス・フリッシュは、「我々が欲しかったのは労働者だが、来たのは生身の人間だった」と述べている。外国人労働者は生活を考えなくても良い労働者、つまりロボットであることを期待されているが、そうはいかない。母国から家族と離れ、単身で異国に仕事を求めて移住する事を考えると、日本の単身赴任を思い出させる。いずれにしても、好ましい状態ではないし、労働者の生活が3年から5年、あるいはそれ以上に及ぶと、外国人労働者個人の人生に大きな影響を与えるし、日本人の社会生活習慣にも大きな影響が生じるのである。
日本政府は、移民の受け入れを認めていない。しかし、外国人労働者の導入は促進している。外国人労働者は、いわば貿易の様なもので最終製品を輸入する代わりに、その製品を国内で作ってくれる労働者を受け入れるものであると言われている。経済の法則からは、一般に10%労働力が減少すると、賃金が3%上がり、労働力が10%過剰になると、賃金が3%下がると言われている。「移民の経済学」のジョージ・ボージャスによると、この様な賃金原則は外国人労働者にも当てはまり、自国民がやりたがらない仕事は、自然な状態では、給与が次第に上昇するが(需要と供給の問題)、外国人労働者の導入は、賃金上昇を阻害すると言われている。これは、経営側にとって都合の良い理屈である。同じように、その産業に居ない一般消費者にとっても、外国人労働者の導入は製品やサービスの価格上昇を抑えることになり、経営側と同様に歓迎される。つまり、当該業種の賃金の上がらない労働者から、一般消費者や企業経営者に富の移転が起こると言えるのである。
外国人労働者は、この様な経済社会のみならず、社会保障政策や文化にも大きな影響を与える。低技能の外国人労働者は低収入なので、社会保障費用は全体としてマイナスになる(徴収する社会保障収入よりも支出する社会保障費用の方が多い)。高技能の場合は、その逆となるのである。従って、外国人労働者に対してはフルラインナップの社会保障でなく、制限された社会保障を与えることになる。また、外国人労働者が文化に与える影響も重要である。
一度に大量の外国人労働者は、当該国の労働者で集団を形成する傾向になる。その反対に少しずつ増加した場合は、集団の形成は少ないと言えるのである。また、都市部に集中した外国人労働者は集団を作り易いが、全国に分散した場合は、集団を作りにくいようだ。外国人労働者が集団を形成すると当然ながら日本の文化に溶け込まず、出身国の文化を強く持ち続けるこになり、文化的融和を阻害する。反対に、日本に来た外国人は、当該国の集団内では安定したストレスの少ない生活を送ることが出来るだろう。
近年の日本での景気浮揚と生産年齢人口の減少による労働力不足は、低所得労働を中心として、著しい人手不足感を生み出している。景気が下がると人手不足感も緩和されると思われるが、企業からの要望は強くなっていて、政府は現在の技能実習制度を拡充し、3年から5年にその期間を延長している。そしてその後さらに5年間の滞在期間の延長も考えているようだ(農業、介護、建設、宿泊、造船の5業種)。その反面、相変わらず、移民政策は取らないとの従来の方針を変えてはいない。そして、日本人が嫌う仕事を外国人にさせればよいとの考えを持っている。
企業経営者やサービスから恩恵を被る一般消費者が希望しているのは、当該労働者の賃金を外国人労働者の導入によって抑止することだ。もしも、外国人労働者の導入をしなければ、サービス業を中心とした労働者の賃金は上昇する(現在その過程にある)。賃金の上昇は、サービス業の生産性を高めるか、サービス価格の上昇を招く。その結果、市場の淘汰が起こり、現在のような過剰サービスを前提とした業態は成り立たなくなるだろう。サービス業全体は縮小するか、価格の上昇(賃金の上昇)との見合い関係が起こるだろう。しかしそれは、サービス業のさらなる生産性の向上をもたらし、労働者間の格差を縮小させるように向かうはずである。
つまり冒頭に掲げたように、外国人労働者を仕事を行うロボットとして期待し、人間としては見ていないことを改め、外国人労働者を人間としてみること、さらには、サービス業に従事する労働者の賃金上昇をもたらすために、過度の外国人労働者依存を解消すること(外国人労働者の導入を今以上には制限すること)を行い、企業寄りでない、日本全体の調和のとれた成長を目指すべきであろう。
長期的には多様性を確保し、島国に閉じこもらず世界との交流を深めるために、日本人の海外移住及び、外国移民の導入は拡大する必要があるが、現状のような安易な低賃金を目的とした外国人労働者の導入は控えるべきであると思われる。
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