日本では、対話が少ない事(黙っていても理解してくれるだろう)が漸く認識されつつある。では、対話を行い問題を解決する為には、どの様な点が重要かについて考えてみたい。
まず、対話に際しては、自分と相手は異なった世界を持っていることを認めなければならない。十分に説明しなくても分かるだろうという思い込みは、多くの人が持っている。「説明したけれど、どうして理解してもらえないのか」などの言い訳は、説明側に全面的責任がある。個人それぞれの世界は異なるので、相手が納得するか、違いを認識するかまで説明する必要があるのだ。相手が違いを認識して(つまりあなたが言っている事柄を理解して)意見が異なる場合には、対話の一部としての「交渉」になる。しかし、「交渉」に移る以前、つまり相手に自分の考え通りに行動してもらいたい(自分の考えを理解してもらいたい)場合には、対話によって説明を行う必要があるのだ。
一方で、相手と自分との間で、世界が異なる事を「理由」として、対話を行わないのはルール違反である。例えば、外国人だから説明しても分からない、知能が低いから話しても分からない、言語、聴覚の障害があるから話しにくい、認知症だから所詮理解できないなどの言い訳は、世界の違いを認識していることとは根本的に異なるのである。「話しても分からない」ことを理由として対話を行わないのは、相手の「人格」を無視することになるのだ。そして、結果的に様々なトラブルを抱えてしまうのである。
自分と相手の世界が異なることを認識し、それでも「対話」によって相互に理解することを前提とする場合、具体的な「対話」の手法を手に入れる必要がある。「対話」の手法について、大切な事は、次の4点である。
①対話の姿勢 ②カテゴリーの一致 ③弁証法的理解 ④交渉 である。
この中で最初に注意すべきは ①対話の姿勢 であるが、これを中心に対話の問題を述べたいと思う。
対話の姿勢では、「傾聴」、「共感的理解」、「肯定的関心」が必要である。「傾聴」は文字通り相手の言葉を、耳を「傾けて」聴くことであり、その間に余分な動作や態度を示さないことだ。(例えば傍を可愛い女の子あるいは男の子が通ると、そちらに視線を向けるなどはもっての外)。また、対話の最中では、うなずきや、「それで? それから?」など、会話を促すような「相づち」を入れること、相手の言った事を一区切りで「要約」し、また相手に対して「質問」を投げかけるのも、「傾聴」するための重要なポイントになる。しかし、これらは、相手の話を真摯に聞いていなければ、出来ないのである。
次に「共感的理解」とは、相手の立場や環境に対して、まず感覚的に共感して話を聞く努力が大切ある。例えば、親を強制的に老人ホームに入れたいと主張している人に対して、「嫌がっている人を入れるのは良くない」との主張は当然であるが、「対話」を成立させる為には、相手の立場や環境つまり自宅でどの様な生活を送っているか、について話を聞く中で、話の内容を想像し、その光景を思い浮かべてみるのも必要なのである。しかし、共感的理解は感情的な抵抗があり、不可能な場合も多い。
最後に、「肯定的関心」とは「傾聴」する場合、その話に関心を持たなければならないが、まずは、肯定的に関心を持つ心構えが必要である。最初から、「否定的」になってしまうと、「対話」は成立しない。「否定的」な意識は、相手に伝わるものなのである。肯定的な関心を持てないのは、多分、相手の立場を考えずに自分の感覚のみで論理を組み立てている場合であろう。共感的理解と異なり、肯定的関心を持つには意思の力で可能である。
この様な考えを持って傾聴することが必要であるが、昔から伝えられている有名な文章を最後に紹介する(作者不詳であるらしい)。
ラヴィング・イーチ・アザーの言葉
「私の話を聞いてください」と頼むと
あなたは助言を始めます
私はそんなことは望んではいないのです
「私の話を聞いてください」と頼むと
あなたはその理由について話し始めます
申し訳ないと思いつつ
私は不愉快になってしまいます
「私の話を聞いてください」と頼むと
あなたは何とか私の悩みを
解決しなければという気になります
おかしなことに
それは私の気持ちに反するのです
祈ることに慰めを見出す人がいるのは、そのためでしょうか
神は無言だからです
助言したり 調整しようとしません
神は聞くだけで 悩みの解決は自分に任せてくれます
だからあなたも どうか黙って私の話を聞いてください
話したかったら 私が話し終えるまで
少しだけ待っていてください
そうすれば 私は必ず
あなたの話に耳を傾けます
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