平成30年の夏は、これまでに経験したことのない暑さに見舞われています。まさに「命に危険を及ぼす暑さ」であり、この7月20日には、日本救急医学会から「熱中症予防に関する緊急提言」が出されています。また、消防庁の集計では、7月16日から22日までの1週間で、熱中症で搬送された方は22,647名に上ったそうで、過去に例を見ない異常事態となっています。
私が住んでいる三重県名張市でも、テレビで映し出されていた光景が、目の前で展開されることになり、「熱中症」と思われる患者さんを実際に診療している状態となりました。
ところで、何故熱中症になると人命に危険が及び、最悪の場合死に至るのでしょうか。色々な「注意」では、水分を十分に摂り、涼しい場所で休息するようにとは言われていますが、単に脱水が原因なのでしょうか。残念ながら、「高熱で何故人が死ぬのか」という医学的なメカニズムまでは、(一般の方には不要かもしれませんが)あまり論じられていないのが実際です。
そこで、この暑い夏を乗り切って頂くための参考になればと思い、私の少ない知識から私見としてではありますが、述べさせて頂きます。
以前から、「人は体温が41℃~42℃になると死ぬ」と言われてはいますが、数年前に、インフルエンザの勉強会で、その謎が解けた気がしました。その勉強会は、徳島大学疾患酵素学研究センターの木戸博先生の長年に亘るインフルエンザ脳症の発症メカニズムに関する研究のお話※でした。
その内容を簡単にまとめてみますと、
① インフルエンザにかかり40℃以上の高熱が続くと、人の細胞の中に有る酵素の一つが働かなくなり、細胞がエネルギーを作れなくなる。
② この結果、エネルギー代謝の最も盛んな神経細胞や心筋細胞、血管の細胞に異常が出始める。特に、脳の血管内皮細胞で敏感に影響が現われ、脳の腫れや脳圧の亢進といった異常を来たし、脳の障害(脳症)を起こす。
③ この細胞内の酵素に付いては、熱に対する抵抗性が全ての人において同じではなく、熱に対して弱い人では40℃以上の高熱が続くと酵素の働きが急速に失われる。
というメカニズムであります。
ここからが私見ですが、熱中症での急激な衰弱と死に至る様子からは、このインフルエンザという感染症で高熱状態になった時と同じ現象が、体内で起こっているのではないかと想像されます。さらに、酵素の熱に対する抵抗性の有り無しで、同じ条件でも熱中症になる人とならない人があるという説明にもなりそうです。
簡潔に言ってしまえば、「高熱で全身の細胞そのものの働きが失われ、生命活動が維持できなくなる」ことであって、「ただ暑いだけ」「ただの脱水」と安易に考えないことが大切であります。
そして、一番の対策は解熱であることは論を待ちません。目の前の患者さんの酵素が熱に強いか弱いかを知る方法はないのですから、先ずは熱を下げることで酵素の働きが失われないようにするのが第一の治療であると言えます。一旦、酵素の働きが失われれば、元に戻れない悪循環に陥るので、気付いた時点で、直ちにあらゆる手段を講じて熱を下げる処置を取るべきなのです。
ご高齢の方では、皮膚にある熱センサーの感度が低下しているために、体が相当な高温になるまで気が付かないことになると言われています。ご自分で「まだ大丈夫」と考えるのではなく、周りの人の助言に従って、早めの対応を心掛けて頂きたいと思います。
ちなみに、「熱中症」はいくつかの症状をまとめて表す「呼び名」です。いわゆる専門用語でいうところの「症候群」と考えられます。これは「風邪(かぜ)」と同じような表現で、のど痛(咽頭炎)、頭痛、鼻水・鼻づまり(鼻炎)、咳・痰(気管支炎)などの幾つかの症状が同時に起こる時に、それぞれの診断名で呼ぶのではなく、まとめて「風邪」と表現しているのです。
同様に、「熱中症」という一つの決まった症状があるのではなく、ふらつき、頭痛、吐き気、食欲不振、だるさ、疲れなど、よくある軽い症状から始まり、一旦悪循環が起こると、幾つかの症状が重なり合い、一気に悪化するということになります。
「何かおかしい」、「いつもの体調と違う」と感じた時には、すぐにお医者さんに診てもらって下さい。
皆さんが、無事にこの夏を乗り切られることを祈念しています。
※「日経メディカル「パンデミックに挑む」、2011/11/28、三和 護=日経メディカル別冊編集部」を参考にしました。
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